ベンチャー企業育成における大学の役割・日米比較
米国では1980年に創設された中小企業開発センター(Small Business Development Center:SBDC)がベンチャー企業の経営面の支援に関して大きな役割を果たしている。現在、各州に少なくとも1ヵ所、全米の57ヵ所に地域の核となるSBDCが設置されている。中核となるSBDCはその地域全体を統括する役割を担っていて、その配下には全米で1,000近くのサブセンターが用意されている。その多くが大学に代表される教育機関に設けられている。
5. 結 論
21世紀はますます「知識社会」となっていくことであろう。「知識」を創造できるのは人間だけであるのだから、人材の価値はますます高まっていき、ベンチャー企業育成のための、起業家育成は大学が取り組む価値のある、極めて重要な課題である。
日本の中小企業支援センターは米国のSBDCに類似した施策であるが、大学の関与において大きな違いがある。その最大の要因は、修士課程レベルのビジネススクールが米国に比べて、非常に少ないことであろう。日本においては、大学が実施機関となっている事例はまだない。
TLOについて日米間で最も大きく相違する点は、「知的財産権の帰属」にある。米国では知的財産権の権利者である「大学」が中心に位置されており、その「代理人」となるTLOが技術移転に関わるすべての活動を取り仕切っている。一方、日本では、知的財産権は結果的に研究者個人や関係企業に帰属することが多いため、TLOは、好意的に賛同してくれる研究者から技術シーズを譲り受ける必要がある。将来的には、日本においても、知的財産権の大学への帰属を義務づける必要があると考えられる。
ベンチャー企業育成における大学の役割を考えた時に、最も重要なポイントは様々な分野での「連携」にある。研究者である大学教授と開発者である企業人との連携、研究・開発者と企業経営者との連携、起業家と支援者との連携、また大学内での理系教育と文系教育との連携などがそれである。多くの分野での交流を通して、お互いの「できること」と「できないこと」を認識し協力することで、様々な可能性を実施に繋げることができる。
今井賢一監修、秋山喜久編(1998) 『ベンチャーズインフラ』 NTT出版
松田修一(1994) 『ベンチャー企業の経営と支援』日本経済新聞社
榊原清則(2000) 「産学連携:意義と限界」 『組織科学』 Vol.34 No.1 白桃書房