ベンチャー企業育成における大学の役割・日米比較
第1節 ベンチャー企業の育成の意義 2
第3節 ベンチャー企業の定義 5
第4節 本研究の論文構成および目的 5
第2章 起業家の学歴および教育・訓練
6
第1節 米国における起業家の学歴および教育・訓練
7
第1項 米国における起業家の学歴 7
第2項 米国における起業家の教育・訓練 8
第3項 スタンフォード・ビジネススクールの場合
9
第1項 日本における起業家の学歴
10
第2項 日本における起業家の教育・訓練
12
第3章 起業家支援
14
第1節 米国における起業家支援
15
第1項 米国のSBDC
15
第2項 MITのエンタープライズ・フォーラム
16
第2節 日本における起業家支援
16
第1項 日本の中小企業支援センター
16
第2項 早稲田大学の起業家支援
17
第4章 知的資産の創造と移転
18
第1項 米国における産学連携の歴史
19
第2項 米国におけるTLOの役割
19
第3項 スタンフォード大学技術移転事務所
20
第1項 日本における産学連携の歴史
22
第2項 日本の大学におけるTLOの役割
22
第5章 結 論
26
主要参考文献
29
|
米ナスダック |
日本の店頭市場 |
登録銘柄数 |
5,068社 |
860社 |
市場全体の時価総額 |
約299兆円 |
約11兆9700億円 |
運営主体 |
全米証券業協会(NASD) |
日本証券業協会 |
98年の新規公開社数 |
274社 |
62社 |
社名 (出身大学) |
会社設立 (A) |
株式公開 (B) |
設立→公開 (B)−(A) |
売上高 (億円) |
時価総額 (億円) |
|
ヒューレット・パッカード (スタンフォード大) |
1947年 |
1957年 |
10年 |
43,302 |
116,426 |
|
ディジタル・イクイップメント (MIT) |
1957年8月 |
1966年8月 |
9年0ヶ月 |
98年1月に11,600億ドル コンパックが買収。 |
||
デルコンピュータ (テキサス大オースチン校) |
1984年5月 |
1988年6月 |
4年1ヶ月 |
25,821 |
133,701 |
|
シスコシステムズ (スタンフォード大) |
1984年12月 |
1990年2月 |
5年2ヶ月 |
12,421 |
374,561 |
|
シリコン・グラフィックス (スタンフォード大) |
1981年11月 |
1986年12月 |
5年1ヶ月 |
2,809 |
1,824 |
|
ブロードコム (UCLA) |
1991年8月 |
1998年4月 |
6年8ヶ月 |
530 |
14,774 |
|
ネットスケープ・コミュニケーションズ (イリノイ大) |
1994年4月 |
1995年8月 |
1年4ヶ月 |
98年11月に5,100億ドルで アメリカン・オンラインが買収。 |
||
ヤフー! (スタンフォード大) |
1995年3月 |
1996年4月 |
1年1ヶ月 |
602 |
116,407 |
|
ライコス (カーネギー・メロン大) |
1995年6月 |
1996年4月 |
10ヶ月 |
139 |
8,792 |
|
アカマイ・テクノロジーズ (MIT) |
1998年8月 |
1999年10月 |
1年2ヶ月 |
4 |
31,161 |
|
|
米国(全国) |
米国(シリコンバレー) |
日本 |
義務教育課程 |
1.1 |
1.1 |
11.7 |
高等学校 |
17.6 |
11.8 |
36.2 |
専門学校・短期大学 |
5.1 |
7.5 |
9.7 |
大学・学士 |
27.2 |
26.2 |
32.4 |
中退 |
16.5 |
19.8 |
7.2 |
大学院:修士・博士 |
26.1 |
26.6 |
1.2 |
資格なし |
6.4 |
7.1 |
1.5 |
有効回答数 |
261 |
187 |
301 |
同世代進学率
大学 |
49.6 |
49.6 |
35.6 |
(92年) 大学院 |
12.7 |
12.7 |
4.9 |
1.バブソン大学 |
11.ニューヨーク大学 |
2.ハーバード・ビジネス・スクール |
12.レンセレーヤー |
3.ウォートン・スクール |
13.セント・トーマス大学 |
4.南カリフォルニア大学 |
14.ベイラー大学 |
5.テキサス大学オースチン校 |
15.デポール大学 |
6.U.C.L.A. |
16.スタンフォード大学 |
7.ウィチタ州立大学 |
17.ケネソー州立大学 |
8.ジョージア大学 |
18.ボール州立大学 |
9.カーネギー・メロン大学 |
19.アリゾナ州立大学 |
10.ノースウエスタン大学 |
20.M.I.T. |
ステージ |
大学名 |
対象 |
科目構成 |
第1ステージ(講座・講演レベル)等十三大学 |
沖縄大学 |
社会人 |
「沖大ベンチャービジネス講座」「沖縄のバイオと農業」「改正沖振法とベンチャービジネス」 |
大阪大学 |
学生全般、社会人 |
「ベンチャービジネス−その構造と育成−」 |
|
鹿児島大学 |
学部生、大学院生、社会人 |
「ベンチャービジネス講座」「起業家育成講座」 |
|
慶應時義塾大学 |
学部生、大学院生、社会人 |
「SFCアントレプレナーシップ講座」、テレビ会議システムの活用 |
|
多摩大学 |
社会人 |
「多摩大学ベンチャー・アカデミー」「ベンチャー企業経営論」 |
|
長崎大学 |
社会人 |
「起業から企業へ−ビジネスダイナミズムの新風−」 |
|
立命館大学 |
社会人 |
「アントレプレナースクール」「資金マネジメント講座」 |
|
龍谷大学 |
社会人 |
「日本型ベンチャービジネスの育成−資金調達の問題点と経営の在り方」 |
|
第2ステージ(プランニング・マッチング・プログラムレベル)等二一大学 |
大阪商業大学 |
学部生、社会人 |
「地域社会と中小企業」 |
京都大学 |
大学院生、学部生 |
「新産業創成論」 |
|
慶應時義塾大学 |
大学院生 |
「アントレプレナー戦略」「中小企業経営」など多数 |
|
神戸大学 |
社会人、学部生 |
「新規事業開発コース」「ベンチャー起業論」「ベンチャー経営論」 |
|
東北大学 |
大学院生 |
「ベンチャービジネス論」「ベンチャー起業政策」 |
|
多摩大学 |
学部生 |
「ベンチャー企業経営論」 |
|
電機通信大学 |
学部生、大学院生 |
「ベンチャービジネス講座」 |
|
法政大学 |
大学院生 |
ベンチャーキャピタリスト養成分野、起業育成分野 |
|
山口大学 |
学部生、大学院生、社会人 |
「ベンチャービジネス論」「Vプロジェクト」 |
|
立命館大学 |
大学院生 |
「ベンチャービジネス研究」 |
|
早稲田大学 |
大学院生、社会人 |
起業・経営政策科目群を設け、ベンチャー専門講座を設置 |
|
第3ステージ(インキュベート・レベル)四大学 |
慶應義塾大学 |
学部生、大学院生、社会人 |
アントレプレナー戦略、ベンチャー企業経営論、企業家論 |
多摩大学 |
社会人、学部生 |
ベンチャー企業の育成、ベンチャー企業成功理論 |
|
山口大学 |
学部生、大学院生、社会人 |
ベンチャー企業概要、新規事業の概要、コーポレートVB論、企業成長のM&A |
|
早稲田大学 |
学部生、大学院生、社会人 |
ベンチャー企業の創出持論、ベンチャー企業のマネジメント持論 |
この項では主に[野村総合研究所(1998)『21世紀におけるハイテクベンチャー企業支援策のあり方に関する調査報告書』]の資料に基づき分析を行なう。米国では1980年に創設された中小企業開発センター(Small Business Development Center:SBDC)がベンチャー企業の経営面の支援に関して大きな役割を果たしている。SBDCは大学に関係するベンチャー企業に対し、大学の持っている専門家ネットワークを活用して各種の支援活動を行なっている。専門人材とは、大学教員、博士課程学生、現役起業家、退官した特定分野の専門家、公認会計士、弁護士などのことである。
|
大学名 |
組織名称 |
1 |
東北大学など |
(株)東北テクノアーチ |
2 |
東京大学 |
(株)先端科学技術インキュベーションセンター |
3 |
日本大学 |
国際産業技術ビジネス育成センター |
4 |
京都大学・立命館大学など |
関西ティー・エルー・オー(株) |
5 |
筑波大学 |
(株)筑波リエゾン研究所 |
6 |
早稲田大学 |
学外連携推進室 |
7 |
東京工業大学 |
財団法人理工学復興会 |
8 |
慶應義塾大学 |
知的資産センター |
9 |
山口大学 |
(有)山口ティー・エル・オー |
10 |
北海道大学など |
北海道ティー・エル・オー(株) |
11 |
九州工業大学など |
(株)北九州テクノセンター |
12 |
神戸大学など |
財団法人新産業創造研究機構 |
13 |
名古屋大学など |
財団法人名古屋産業科学研究所 |
14 |
九州大学 |
(株)産業連携機構九州 |
15 |
東京電機大学など |
東京電機大学産官学交流センター |
16 |
山梨大学・山梨医科大学 |
(株)山梨ティー・エル・オー |
17 |
東京都立大学・工学院大学・東洋大学など |
タマティー・エル・オー(株) |
18 |
明治大学 |
知的資産センター |
19 |
横浜大学・横浜市立大学など |
よこはまティー・エル・オー |
20 |
徳島・香川・愛媛・高知・高知工科大学など |
テクノネットワーク四国 |
|
特許出願中の件数 |
特許の取得件数 |
TLOが収入を得た件数 |
(株)先端科学技術インキュベーションセンター |
169 |
1 |
6 |
関西ティー・エルー・オー(株) |
113 |
0 |
11 |
慶應大学知的資産センター |
108 |
0 |
8 |
財団法人理工学復興会 |
100 |
1 |
8 |
国際産業技術ビジネス育成センター |
77 |
1 |
3 |
(株)東北テクノアーチ |
73 |
3 |
2 |
早稲田大学学外連携推進室 |
69 |
2 |
1 |
(有)山口ティー・エルー・オー |
25 |
0 |
0 |
北海道ティー・エルー・オー(株) |
21 |
1 |
4 |
(株)筑波リエゾン研究所 |
16 |
0 |
1 |
財団法人名古屋産業科学研究所 |
16 |
0 |
1 |
(株)産業連携機構九州 |
15 |
0 |
0 |
財団法人新産業創造研究機構 |
13 |
0 |
1 |
東京電機大学産官学交流センター |
10 |
0 |
0 |
(株)北九州テクノセンター |
7 |
0 |
0 |
タマティー・エルー・オー(株) |
1 |
0 |
0 |
(株)山梨ティー・エルー・オー |
0 |
0 |
0 |
合計 |
833 |
9 |
46 |
日本の起業家育成に関して、大学は従来の大企業サラリーマン養成機関から抜け出す時がきた。起業家育成は「自立型個人」あるいは「創造型個人」の育成を意味している。組織のなかで埋没する個人でなく、自分の足でしっかりと立ち、自分の運命を自分で決する個人を育成することである。21世紀はますます「知識社会」となっていくことであろう。「知識」を創造できるのは人間だけであるのだから、人材の価値はますます高まっていき、ベンチャー企業育成のための、起業家育成は大学が取り組む価値のある、極めて重要な課題である。
日本の起業家支援に関して、中小企業支援センターは米国のSBDCに類似した施策であるが、大学の関与において大きな違いがある。その最大の要因は、修士課程レベルのビジネススクールが米国に比べて、非常に少ないことであろう。日本においては、大学が実施機関となっている事例はまだない。しかしながら近年、日本においてもビジネススクールは増加しており、コンサルティング等に関する資金的な負担減に加えて学生に対する教育的な効果も期待されることから、大学の有効活用を検討する必要がある。
日本の知的資産の創造と移転に関して、TLOでの「知的財産権の帰属」に日米間で最も大きな相違点がある。米国では知的財産権の権利者である「大学」が中心に位置されており、その「代理人」となるTLOが技術移転に関わるすべての活動を取り仕切っている。研究開始時の契約や合意によって、大学研究者(学生を含む)が発明した特許等は大学に帰属することが義務化されていることが多い。一方、日本では、知的財産権は結果的に研究者個人や関係企業に帰属することが多いため、TLOは、TLOへの知的財産の帰属を同意してくれる研究者から技術シーズを譲り受ける必要がある。技術シーズの収集という業務が加わる上に、研究者から譲り受けた権利だけに、TLOが自立的に意思決定を行なえない可能性が生じる。また、権利の所有者を大学に一元化することができれば、特許出願・維持やライセンス交渉などの関連業務の効率化にもつながる。将来的には、日本においても、知的財産権の大学への帰属を義務づける必要があると考えられる。
知的財産権に関して、米国政府は1980年のバイドール法によって、特許をとりづらくし、多くの人に技術を開放する「アンチ・パテント政策」から、特許による独占権の保護を重視する「プロパテント政策」への移行を明確に打ち出した。時代背景的に、70年代の米国は、第一次・二次オイルショック、ベトナムショック、日本企業の世界市場席巻などにより長引く不況、不況にともなう税収減からの教育予算の逼迫という要素から、業績不振に悩む産業界、資金不足に悩む大学・研究機関が、抜本的な不況対策の施策を期待したことがあげられる。
このプロパテントへの政策転換によって、大学による特許所得数は、1984年に年間551件だったものが、97年には2436件となり、4倍以上に増加している。
現在、日本社会は、長引く不況、特許政策の転換など、ちょうど70〜80年代の米国社会と同様な状況に置かれている。以下の図表に見られるように日米のプロパテント政策には10年以上の開きがある。
.(出所)金子直哉(2002) 「産学連携の成立に、本当に必要なこと」 『Works』No.49
リクルートワークス研究所
プロパテント政策での遅れをいかに取り戻すことができるのかが、今後日本のベンチャー企業育成に大きく関わっている。
ベンチャー企業育成における大学の役割を考えた時に、最も重要なポイントは様々な分野での「連携」にある。研究者である大学教授と開発者である企業人との連携、研究・開発者と企業経営者との連携、起業家と支援者との連携、また大学内での理系教育と文系教育との連携などがそれである。多くの分野での交流を通して、お互いの「できること」と「できないこと」を認識し協力すること、で様々な可能性を実施に繋げることができる。
日本においても、様々な分野の連携を通じて、米国のような産学連携による大学発のベンチャー企業の育成は可能であると考えられる。
1.青木昌彦 他(2001)
『大学改革』東洋経済新報社
2.荒井久(2000) 『ビットバレーの鼓動』
日経BP社
3.(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部編)(1983)
『新産業創業成功のメカニズム』
日本経済新聞社
4.福田昌義編(2000) 『ベンチャー創造のダイナミクス』 文眞堂
5.浜田康行(1996) 『日本のベンチャーキャピタル』 日本経済新聞社
6.東一眞(2001) 『「シリコンバレー」のつくり方』 中公新書ラクレ
7.今井賢一(1995) 『シリコンバレー・モデル』NTT出版
8.今井賢一監修、秋山喜久編(1998) 『ベンチャーズインフラ』
NTT出版
9.(野村総合研究所)(1998) 『21世紀におけるハイテクベンチャー企業支援策の
あり方に関する調査報告書』
10.金井壽宏(1994) 『企業家ネットワークの世界』白桃書房
11.金子直哉(2002) 「産学連携の成立に、本当に必要なこと」 『Works』No.49
リクルートワークス研究所
12.カール・H・ヴェスパー著、徳永豊他訳(1999) 『ニューベンチャー戦略』 同友館
13.(神戸大学大学院経営学部研究室編)(1988)『経営学大辞典』 中央経済社
14.清成忠男(1999) 『21世紀の私立大学像』
15.前田正史編(2001) 『「ベンチャー起業論」講義』 丸善株式会社
16.松田修一(1994) 『ベンチャー企業の経営と支援』日本経済新聞社
17.中村忠一(2001) 『あなたの大学が潰れる』 エール出版社
18.中村秀一郎、石井威望編(1983) 『ベンチャー・マネジメント』 日本経済出版社
19.野中郁次郎(1990) 『知識創造の経営』 日本経済新聞社
20.榊原清則(2000) 「産学連携:意義と限界」 『組織科学』 Vol.34 No.1 白桃書房
21.高木晴夫編(2001) 『アントルプレナ−創造』 生産性出版
22.丹下博文(1992)『検証 日米ビジネススクール』 同文館