苗とたんぽぽ
大きな大きな家の、大きな大きな庭に、小さな小さな苗と小さな小さなたんぽぽが楽しく暮らしていました。
ある日、たんぽぽが、苗に言いました。
「苗君は、僕より幸せだよ」
「どうして?」
苗は、不思議そうにたんぽぽにたずねました。
「だって、君はりっぱな植木なんだよ。肥料とか水とかたくさんもらえるじゃないか。それにくらべて、僕はただの雑草なんだよ」
苗は、何も言えませんでした。
春が過ぎて……
夏が過ぎて……
秋が過ぎて……
冬が過ぎて……
また、春が来て……、いつしかたんぽぽは、大きな綿毛をつけていました。
苗が、たんぽぽに言いました。
「たんぽぽ君は、僕より幸せだよ。」
「どうして?」
たんぽぽは、不思議そうに苗にたずねました。
「だって、君の子供たちは、綿にのってどこにでもいけるじゃないか。それにくらべて、僕はここにいることしかできないんだよ」
たんぽぽは、何も言えなせんでした。
綿毛は、風にのって飛び立ち、やがてたんぽぽは枯れました。
それから、何年も何年もたちました。
小さな小さな苗は、大きな大きな樹になりました。枝には、小鳥たちがさえずり、まわりには、子供たちが楽しそうに遊んでいます。
大きな樹は、幸せでした。
そんなある春の日、大きな樹の側に、ふわふわと一つの綿毛が飛んできました。その綿毛は、みるみるうちにたんぽぽになりました。
たんぽぽは、大きな樹に言いました。
「僕のおじいさんの、そのまたおじいさんの、ずっと昔のおじいさんから、言われつづけていました。今まで見てきたこと、楽しかったことや面白かったこと、恐かったことや悲しかったこと、全部を、あなたに話してほしいと」
たんぽぽは、大きな樹に話し始めました。
大きな樹は、やさしい目できいていました。
ずっと、ずっと聞いていました。
二人はとても、しあわせでした。
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