Linuxの可能性について

 

 いま、世界中を覆いつつあるインターネット革命の本質は、誰でも手軽に情報を入手できる「情報バリアフリー革命」、誰でも手軽に情報を発信できる「草の根メディア革命」、多くの人々が高度な知識を活用できる「ナレッジ共有革命」という三つの革命である。

 そして、いま、このインターネット革命は「イントラネット革命」という形で企業を変えつつあり、「エレクトロニック・コマース革命」という形で市場を変えつつある。そして、それはまもなく、「エレクトロニック・コミュニティ革命」という形で社会を変えていくだろう。

 しかし、いまだに多くのビジネスマンやマネジャーが、この「イントラネット革命」や「エレクトロニック・コマース革命」が企業や市場にもたらすものは、単なる「効率化」や「合理化」「コスト削減」であると考えている。しかし、イントラネット革命が企業にもたらすものは、「企業の進化」であり、エレクトロニック・コマース革命が市場にもたらすものは、「市場の進化」である。すなわち、インターネット革命は、これまでの企業や市場というものを、まったく新しい性質を持つ企業や市場に変えていってしまうのである。

 いま、世界中を覆いつつあるインターネット革命(ネット革命)は、徹底的な「市場の情報化」をもたらそうとしている。しかし、この「市場の情報化」がもたらすものは、単なる「市場効率化」ではない。それがもたらすものは、「市場の進化」に他ならない。

 すなわち、このネット革命によって、これまでの市場は、まったく新しい性質を持った市場へと「進化」を遂げていくのであるが、その進化のビジョンをシリコンバレーでしばしば使われている言葉で述べるならば、「バイヤー・セントリック・マーケット」である。すなわち「購買者中心市場」や「顧客中心市場」とでも呼ぶべき、まったく新しい性質の市場へと進化を遂げていくのである。

 このネット革命は、「顧客中心市場」を生み出すことによって、同時に、資本主義市場の性質を変えてしまう。

 例えば、いまネットビジネスにおいて注目を集めている「eベイ」の提供する「オークション・サービス」は、これまでの市場では不可能であった、数百万人が参加する「競り」を可能にした。そして、このサービスによって、これからの市場では、中古品が容易にリサイクルされてくることになり、その中古品が市場で新製品との価格競争を引き起こすことになる。しかも、その中古品の値段をつけるのは、企業(生産者)ではなく、顧客(消費者)なのである。

また、こうした「顧客中心」をさらに徹底したのが、「プライスライン」の提供する「逆オークション・サービス」である。これは、顧客が「指値」で商品を買えるというサービスであり、これによる「航空券」や「ホテル客室」などの売買が急増している。これは、従来の「企業が値段を決める」という常識を打ち壊し、「顧客が値段を決める」という新しい方式を生み出した画期的なサービスである。

 ネット革命の本質は、誰でも手軽に情報を入手できる「情報バリアフリー革命」、誰でも手軽に情報を発信できる「草の根メディア革命」、多くの人々が高度な知識を活用できる「ナレッジ共有革命」という三つの革命である。

 従って、エレクトロニック・コマース革命とは、これら「三つの革命」が市場に浸透することに他ならない。

 まず、「情報バリアフリー革命」が市場に浸透することによって、市場は「ガラス張り」の市場になっていく。すなわち、顧客はインターネットのポータルサイトなどにアクセスするだけで、欲しい商品の価格や内容に関する情報を自由に得られるようになり、様々な商品の情報を入手し、それらを徹底的に比較してショッピングをすることができるようになるのである。

 これは、経済学で述べられてきた、いわゆる「完全情報の市場」に近い状況が生まれてくることを意味しているが、こうした「情報バリアフリー」の市場においては、まず最初に、企業は徹底的な価格競争を余儀なくされるようになる。そしてその結果、一つの商品は一つの価格でしが売れないという「一物一価」の原則が市場に浸透してくる。

 「ガラス張りの市場」が生まれ、顧客が自由に市場の情報を入手することができるようになると、顧客はショッピングに際して商品に関する情報を十分に入手し、様々な商品を徹底的に比較検討して購入を決定するという「戦略的な行動」をとるようになっていく。

言葉を換えれば、これまで企業の側の「専売特許」であった「戦略」という言葉が、これからは顧客の側の言葉になっていくのである。

 そして、インターネットという「情報ツール」は、こうした顧客の意識変化を加速していく。フリードリッヒ・エンゲルスの言葉を借りれば「道具は意識を進化させる」からである。しかも、そのインターネットという「道具」そのものも、最近では携帯電話や電子手帳がネット端末になってきており、パソコンやキーボードの苦手な人々も、これからは手軽にインターネットを利用する時代になっていく。

 すなわち、こうしたインターネット端末の普及により、これまでは企業の側が握っていた「情報主権」が、顧客の側に移っていくことになる。それは言葉を換えれば、市場において「情報通信革命」ではなく、「情報主権革命」とでも呼ぶべきものが進んでいくことを意味している。

  これまでの市場において、顧客は「企業の声」に耳を傾けていた。なぜならば、市場において商品に関する情報を得ようと考えても、企業から提供される広告・宣伝の情報しか得ることができなかったからである。

 しかし、最近では、顧客は「識者の声」に耳を傾けるようになってきている。すなわち、商品を購入する前に、様々な商品カタログ誌を入手し、特集などに組まれている「商品比較」の記事に目を通し、そこで述べられている「中立の識者」の意見に耳を傾けているのである。

そして、これからの市場においては、顧客は「顧客の声」に耳を傾けるようになっていく。なぜならば、インターネットのホームページに「顧客コミュニティ」が数多く生まれてきており、こうした場で、顧客同士が声や意見を交換しあっているからである。

 顧客がショッピングに際して、商品に関する情報を十分に入手してから商品の購入を行うようになっていくと、企業は、顧客に対して商品に関する十分な情報を積極的に提供しなければならなくなる。

 なぜならば、もし、そうした情報サービスを顧客に提供しなければ、顧客は情報サービスが充実した他の企業から商品を買うようになっていくからである。そのため、企業が顧客に商品を売りたいと思うならば、顧客に対する情報サービスを充実させることが絶対的な要件となっていく。

 しかも、ここで求められる情報は、単なる「データ」のレベルの付加価値の低い情報ではなく、高付加価値の「ナレッジ」のレベルの情報である。商品に関する価格や仕様、性能といった「データ」のレベルの情報だけでなく、その商品の高度な使い方や関連する製品との組み合わせ方など、高度な「ナレッジ」のレベルの情報を提供することが求められるようになっていく。そして、そのために、企業は、社内の専門スタッフのナレッジを顧客に提供できるような仕組みをつくらなければならなくなる。

 こうして市場の性質、顧客の意識、商品の性質などが変わってくることによって、市場には、顧客にとって最高のサービスを提供する「ニューミドルマン」が生まれてくる。

 すなわち、企業の立場に立って「販売代理」を行っていたこれまでの「オールドミドルマン」(古い中間業者)ではなく、顧客の立場に立って「購買代理」を行う「ニューミドルマン」(新しい中間業者)が生まれてくるのである。

 例えば、これまでのトヨタ、日産、ホンダなどのカーディーラーに代わって、「カーポイント」や「オートバイテル」などのサービスが生まれてくるのである。顧客に代わって、様々なメーカーから見積もりを取り、中古車の情報を提供し、オートローンや損害保険のサービスを提供し、カーアクセサリーの情報をも提供してくれる「ショッピング支援」のサービスである。

  ニューミドルマンは、これまでの市場における「ルール」を変えてしまう。

 すなわち、これからの市場においては、顧客がショッピングに際して最初に相談に来てくれるポジション、すなわち「ゲートウェイ」(通行門)の立場に立つことが最も有利になるという新しい「ルール」が生まれてくるのである。

 そのため、企業にとっては、そうした立場に立つための「ゲートウェイ戦略」と呼ばれるものが中心的な戦略となっていく。例えば、いま、ネット・ビジネスの世界で注目されている「ポータルサイト」(玄関サイト)も、まさにこの「ゲートウェイ戦略」に他ならない。

一方、こうした現象をマクロに見るならば、市場が「アテンション・エコノミー」(注目の経済)と呼ばれるものになっていることを意味している。すなわち、市場において「注目」を集める経済主体が有利になっていくという経済原理が生まれつつあることを理解しなければならない。

 ニューミドルマンのビジネスの本質は「購買代理」であるため、彼らは、市場において、「購買代理」に関する新しいビジネスモデルを次々と生み出していく。言葉を換えれば「ショッピング支援」のビジネスモデルを生み出していくのである。

 このことは、視点を変えれば、これまでの企業中心の「販売代理」のビジネスモデルがこれから根本的に組み替わっていくことを意味している。

 そして、そのことを象徴するのが、いま注目されている「ビジネスモデル特許」である。

すなわち、これまでの「技術特許」とは異なり、ビジネスの「仕組み」そのものに関するアイデアが特許として認められるようになってきている。そのため、企業の知的所有権に関する戦いは、これから、この「ビジネスモデル特許」の領域へと展開していく。

 ニューミドルマンのビジネスは、顧客の立場に立って「ショッピング支援」のビジネスモデルを生み出し、これを顧客に提供することであるため、必然的に、顧客のニーズを中心に様々な企業の商品を組み合わせて提供することになる。

 その結果、ニューミドルマンは、市場において「商品生態系」とでも呼ぶべきものを形成し、強化していく立場に立つことになる。例えば、ポータルサイトは、この「商品生態系」の具体的現れに他ならない。

 従って、ニューミドルマンは、市場において、これら「商品生態系」の全体が強化される戦略を展開することになる。一例をあげれば、ユナイテッド航空がホテルやレンタカーと組んで展開している「マイレッジ・プラス」などの「アライアンス・マーケティング」の戦略である。

  こうした「商品生態系」の戦略は、別な角度から見るならば、「異業種連合」の戦略でもある。すなわち、ニューミドルマンは、様々な商品を扱う異業種を集め、その提携や連合を戦略的に生み出すことによって、商品生態系の戦略を展開していく。

 そして、こうした「異業種連合」を進めるための具体的な手法が、「コンソーシアム」(企業連合)という手法である。いま、市場において、様々なネットビジネスとともに、様々なコンソーシアムが注目されているのには、こうした背景がある。

 そして、異業種連合が増えるもう一つの理由は、eコマースというものの本質が「超流通革命」であるからでもある。すなわち、これまで進んできた「物流の流通革命」、ネット革命がもたらした「情報流の流通革命」、そして金融ビッグバンがもたらした「金流の流通革命」という三つの流通革命が統合されることによって、顧客から見るならば「商品情報の入手」「商品購入の手続」「商品代金の決済」「商品現品の配達」という一貫したサービスを受けることができるのである。従って、ニューミドルマンは、この三つの流通革命を統合する「超流通革命」を推進するためにも、市場に様々な「異業種連合」を生み出していくことになる。

 ニューミドルマンは、「顧客中心」のビジネスモデルを生み出すために、様々な異業種企業の企業連合(コンソーシアム)や戦略的提携(アライアンス)を推進していくが、同時に、当然のことながら顧客との結びつきを強めていく。

 すなわち、ニューミドルマンは、まず最初に、ポータルサイトに「顧客コミュニティ」を開設して顧客の声や意見を聞き、それを商品開発に反映させていくという戦略を展開する。しかし、こうした戦略は、かならず「顧客の意見を聞いて商品を開発する」という段階から、「顧客と協働して商品を開発する」という段階へと向かっていく。

 それが、20年前にアルビン・トフラーが予言した「プロシューマ型開発」(プロデューサ+コンシューマ)である。その予言が、ネット革命によって、ようやく可能になったと言える。

  Linux というオープンソースOSは、ハッカー文化を基盤にして、自由な情報のやりとりの中で育まれた。いわばコミュニティの落とし子である。その自由でオープンなコミュニティは、これまでの経済価値=希少性を元にした利益追求という概念では説明できない独特のネットワーク文化を持つ。

  お金が第一義の目的ではなく、コミュニティに流通する情報や生産物への貢献が認知されることに意味を見出すというがコミュニティ文化の特徴だ。

  ネットワーク上で情報が集まり、編集されていく過程で情報価値が高まるという「コミュニティ」の特性と、利益を追求するビジネスが相互補完的に結びつくとき、新たな経済価値が誕生するのだ。

  それは、コミュニティとビジネスが互いを束縛しないアライアンスが成り立つ時である。

  コミュニティとビジネスが互いに束縛するのではなく、微妙な線を保ちながら補完する現象の事例として Linuxのほか、WAAGというPCやデジカメなどの評価サイト、さらにMorphyOneというパームトップコンピュータ(ハード)をコミュニティが作り上げるプロジェクトなどが存在する。

  いずれも実に興味深い“共創現象”である。それはまさにコミュニティが産み出す「情報の編集価値」が「経済価値」へと変化する瞬間であり、アライアンスの姿である。